秋の公演の最終日、
主役が急病で倒れてしまって
急遽代役に抜擢された うら若きバレリーナが、
ろくすっぽ手さえ触れなんだほど お初のお相手との
微塵も揺るがなかったパ・ド・ドゥを絶賛されて幕を下ろした。
「三木様ーっ!」
「紅バラ様〜っ!」
場内からは個人的にお顔を知る、
つまりは女学園の在校生かららしい歓声も飛び交い、
カーテンコールで次々に登場する踊り手たちの中、
バレエ団の主管先生と共に登場したほっそりとした少女には、
割れんばかりの拍手が贈られたのだが、
【 イワノフ皇女からの花束贈呈がございます。】
皆様拍手でお迎えくださいと、
ロシア外交官と共に現れた、
そちらの筋の皇女様にスポットライトが当たると、
場内はさわさわと静かになってゆき。
外交的な視察とかいうのではなく、個人的な観劇だったものか、
仰々しいお衣装でもない、だが、それは愛らしい少女が、
銀色に近い金髪をさらさらと揺らして現れて。
か細い腕には重たげな、それは大きな花束を抱え、
舞台に居並ぶ顔触れの中、
じいっと見やったのが自分と大差ない幼さのお姉様バレリーナ。
え?俺か? もとえ、わたし?と、
自分の顔を指さす大ざっぱな所作をしたことで場内がどっと沸き、
そんなヒサコ様への花束贈呈がつつがなく運んだはいいのだが、
「…っ。」
ちかりと、どこからかの思わぬ光が眩しく差したのへ、
眸を薄く伏せ、そのまま おっとっとと倒れ込むように、
皇女様の小さな御身へ両腕広げて抱きついた久蔵お嬢様だったものだから、
「きゃーっ。」
「いやーっ。」
「ずるい〜〜っ。」
紅バラ様のシンパシーたちなのだろう、十代の少女らの悲鳴が上がったのへ、
何を勘違いしたか、舞台の左右の袖から黒づくめのボディガードが飛び出すわ、
「〜〜〜。///////」
すまんな、汗臭かっただろうにと、
何とも頓珍漢なお詫びを言う、
ノーメイクでも絶世の美丈夫のお姉様にハグされて。
真っ赤になった皇女様なのを、付き添いの皆様がそっと退出させた後。
久蔵がちらりと見やった先にいらした、
柔らかな髪を甘く撫でつけた、そちらもなかなかの美丈夫が、
うんとうなずき、スマホでどこやらへ連絡をすれば、
場内のバックヤードのあちこちでガサゴソという物音がたっての数刻後には、
緞帳の片隅へ穴を空けたライフルを撃った狙撃手が、
あっさりお縄を受けていたりして。
はたまた別のカメラが捕らえたお宅では、
よくある家庭用のコタツの上へ、
何やら細かい部品や金くずを広げた中。
いかにもまろやかな少女の指先にて、
シャープペンシルのようなハンダごてが操られての、
特殊な集積回路への何やら本格的な細工中。
「…と、ここが面倒なんですよね。」
焦げ臭い独特な匂いが充満しているが、
集中を切らすと失敗につながるだけに、
いや〜んなんても言ってはいられぬ。
そろそろと近づけたコテの先で、
銀色にとろけたハンダを細い細い回線の上へと垂らし、
少し離れた別口の回線へと接続してしまい。
「やったぁ、完成っ。」
ばんざーいっと両手を挙げたついで、
そのままパタリと後ろへ仰のけに倒れ込めば、
「大した職人芸だの。」
「おおっとぉ。」
いつの間に来ていたものか、トレイへお茶の用意を抱えた五郎兵衛さんが、
コタツの傍にひざを進めておいで。
いや声は掛けたのだがな。
ええはい、きっと聞こえなかったんです、わたし。///////
ああまで集中してたんじゃあねぇと、
そこは双方でも納得した模様であり。
今日のおやつはいちご大福だぞと、
お手製の絶品菓子をどうぞと進呈された、ひなげしさんこと平八お嬢様。
「わあvv」
慌ててコタツの上を、
腕をワイパーのようにして薙ぎ払って一気に“片づける”と、
お茶の一式もどうぞと置き場を作って差し上げる。
勿論、苦労した集積回路は別扱いで、
プラスチックケースへ収め、窓辺の机の上へ退避させてあるのだが。
そうまでの扱いへ、
彼も休憩か、コタツへ足を突っ込みがてら
「あれは新しい発明に使うのか?」
五郎兵衛がそうと訊くと、
餅とあんことイチゴの配分が絶妙なイチゴ大福へかじりついたひなげしさん。
お口の端へ粉をつけたまま、うんうんと嬉しそうに頷いて、
「急遽捻り出したよな、
特殊な波長の電波での交信も可能にするデバイスに使うんですよ。」
盗聴の危険性はどこにいてもある昨今ですし、
かといって、その場その場で周波数を細かに切り替えてってのは、
既製品のスマホなんかじゃあ受信に無理がある。
そこで…と言いかかり、
「これ以上はゴロさんでも内緒ですvv」
「おっ。」
大丈夫、危ないことへは使いませんてと、
うくくと微笑ったは無邪気なお顔だったけれど、
「伝導性のある特殊なインクでプリントしちゃうという
最新式の手もあるにはあるんですが、
それだと耐久性に問題があるんですよね。
いえ、ちゃんとした設備でやるなら問題はないでしょうが、
わたしがやるのなら手持ちのプリンターへの応用になっちゃいますから…。」
すらすらと何やら専門的な話を並べる平八なのへは、
半分も判らぬと苦笑を返すしかない五郎兵衛殿。
だからと言って、ごまかすような嘘は並べない彼女でもあり、
「ほれ、口に粉が。」
「あ…。//////」
ひょいと大きな手で構いつけられると、てきめん、
湯がいたように真っ赤になっての撃沈されるから可愛らしいもの。
最新式の防衛ソフトが何重にも掛けられたシステムへでさえ、
楽勝でもぐりこめる天才ハッカーも、
恋の甘さには勝てないようで。
「後でで良いから、年賀状の図案を一緒に考えてくれぬか。」
「あ、はい、後なんて言わず今からでも。//////」
これこれ、第一そろそろ期末考査だろうにと、
さすが女学園出入りの和菓子宗匠、詳しく御存知なものだから、
あうう〜〜っと これまたあっさり撃沈しちゃった
電脳小町さんだったりするのであった。
片や片や。
絣の着物に和装のコート。
前へ泥返しのついた愛らしい下駄をはき、
無地の和紙にすっぽりとくるまれた、
菊や南天、リンドウなどなど、
これから活けるのか少し長いめの花の包みを手にした少女が、
交差点に淑やかに佇んでいる様は、
何とも優雅でついつい人目を集めてやまぬ。
そこまで和風で固めておりながら、
髪が金髪で双眸は水色という突飛さだが、
面差しはそれほどバタ臭くもなく、
所作も落ち着いたそれなので、
清楚な雰囲気を一向に邪魔してはいない。
交差点とは言っても、歩道の端という位置でなし、
しかも信号を見てもいないから、
先へ渡ってゆこうという身ではないようで。
さすがにちょっぴり寒いのか、
時々花を持ち替えては手へ吐息を吹きかける風情が、何とも愛らしく。
「凄げぇな。ジャパニーズ・ゴージャス。」
「うんうん。」
「美人すぎるし、いろいろ揃い過ぎてて、あれは声掛けられんわ。」
「あ、でもないぞ、豪傑がいた。」
いかにも軟派そうな二人連れ、
は〜いと手を上げ、すぐ傍へ寄りつき、
何か話しかけていたようだったが、
「〜〜〜vv」
にっこり微笑って一言返すと、急にたじろいで去ってしまったから、
な、何を言ったんだろう。
「一昨日おいでとか?」
「そのくらいなら堪えんだろ。」
「釣り合わねぇんだよ、鏡見て来いとか。」
「とろけるように微笑ってか?」
「今からお父様が来るんですとか。」
「どんな恐持てのお父様だ。」
度胸試しの最初の怖いもの知らずが、
だがあまりにあっさりと撃沈されたものだから、
周囲の顔触れの間に
妙な空気と…ひそひそひそという囁きとが
あっと言う間に広まってしまい、
しかもしかも
「…儂も聞いてみたいものだがな。」
「あら、勘兵衛様。///////」
出先で鼻緒が痛みだしたんですと、無理を承知のSOSをメールしてみたら、
なんと“すぐ行く”との返信が。
“…まあ、佐伯さんから、
今週の当直表とか見せてもらっていましたが。”
昨日 凶悪な事件を片付けたばかりなので、
いくら何でもすぐには忙しくなるまいと、
そこも見越してのメールだったのではあるけれど。
珍しい和装の七郎次へ、眩しいものでも見るように目許細めた勘兵衛だったが、
何の、そんな勘兵衛だとて、
豊かな蓬髪を背中へ垂らした上に顎髭まである、
どこの芸術関係者かというよな風体で。
だというに、肩や胸板の張りよう、背中の頼もしさは
どんなアクション俳優かというタフな強靭さを示してもいて。
“こんな精悍なお人が警察関係者だなんて…。”
それも、いかにもな警備部や特殊強行班でもない、
一般市民の上へ起こる事件担当の刑事さんですものねぇと。
そんな特別な人が、自分のお連れだと
ひけらかせるのがちょっぴり嬉しかった白百合さんだが、
「内緒ですよぉ。」
女子があんなはしたないこと、二度と言えますかと。
つ〜んとお澄ましするものだから、
「はしたないこと。」
う〜ん、なんだそれとますますと険しいお顔になった勘兵衛だったが、
そんな彼が乗って来たセダンへ先にさっさと乗り込む七郎次お嬢様、
はてさて、何て言って軟派なナンパを追い払ったのでしょうか?
“ダメですよぉ、内緒ですvv”
おやおや。
ではこれは、期末考査明けまでの宿題ということで。
急にお寒くなりましたが、皆様どうかご自愛の程を…。
〜Fine〜 13.12.02.
*来たる“妻の日”に何かと思ったのですが、
ネタが浮かばず、関係ないものを上げました、すいません。
夫婦と言ったら…も女子高生ものをUPしたんですよね。
何か、今はこの子たちが一番動かしやすくてつい。
某島田宗家の重厚なカップルは、
むしろいじってくれるなとか言い出しそうですし、
小説家の先生のところは、私より先に猫様たちが邪魔しそうで。(笑)
(失礼なっ )
めーるふぉーむvv


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